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宙組「神々の土地」感想

宝塚歌劇・宙組
09 /12 2017
えっとあの、すみません。

まだ花組感想の途中ですが、いろいろなことを投げ出して遠征してきたんで、そちらの感想を先にうpします。宙組「神々の土地」感想です。

 歴史を題材とした作品だけど、「創作作品ですから、史実は使えるものを厳選し、あくまでも創作として造り上げています」と控えめなスタンスを貫きいつつ、実際には使ってる史実が一番ハードモードなものばっかり選んでくるあたり、上田先生ってばかなりのハードモードやでえ……!!!

 見終わってすっごい感動したし。
 充実した名作を見たとは思っているけれど。

 史実知ってるとガチでキツいわ-!!!

 めちゃキツい史実については、上田先生がさりげなく伝聞にしたりしているおかげで、「ここでは語られない史実」を知らない限りは、「とても悲しい悲劇」止まりになる仕掛けになっているんだけど。

 なまじ見る前から史実知ってるとダメージがでかい!

 私が史実を使う創作作品を読んでいて一番好きな瞬間は、「ものがたりで編み出された虚構が、作中で描かれていない大きな史実にふっと繋がり、歴史の流れに合流する」という流れが見える瞬間なんですが。

 一番ハードモードな史実にバッチリ繋がる仕掛けがあっちこっちに!!!

 ニコライ一世一家が処刑された史実と、革命に至るまでの経緯を知っていると、アレクサンドラ皇后が、娘オリガに「お前達だけは私が必ず守る」ってところは、ほんとダメージ来る。この皇后の一途な子供たちへの愛が、回り回って子供達にあのような悲惨な最後をもたらしたことを知っていると、もう、ほんと、ね……!あのシーンは、ほんともう客席で叫ぶかと思ったですよ……。

 ほかのいろいろなシーンも、ほんといろいろと吐血しそうでした……(後で書くけどゾバールの未来を想像してもかなりダメージ来ます)。上田先生ってば、こりゃすべてを知り尽くした上でぬかりなく計算しとるで……。後の歴史を知らない人には普通に感動的な台詞だけど、知っている人には残酷なまでに厳しい台詞にしとるで……。史実知ってる組にはほんとキツいけど、知らない人には悲しいけれど美しい悲劇になるよう、内容にちゃんとしてある。なんという鬼才……!。ほんと上田先生は、隙無くもれなく、必然としての悲劇ルートを構築してるわ……!いろんな意味で鬼ですわ……!(※褒めてます)(※すっごく褒めてます)(※才能という意味でも鬼という意味でも)



 とはいえ。
 その描かれた悲劇は、とてつもなく美しい悲劇なんですよ。

 寒々しい雪原の大地の美しさと。
 華やかな帝国の末期の美しさとが。

 伶美うららと朝夏まなとの美しさと融合し、これ以上なく美しい舞台なんですよ……!

 伶美イリナの、一見儚げでありながらも、実は最初から最後まで自分の意思を貫き通し、決して折れることなかった強さが、本当に美しかった……。この劇中では、彼女だけなんですよね。最初から最後まで、自分の生き方を変えずに貫き通したのは。彼女は終盤、皇族として帝国ロシアと最後を共にすることを決め、その生き方を貫き通した。その高潔な生き様が本当に美しくてね……!

 対し、朝夏ドミトリーは、「皇族としてこの難局にどう立ち向かうか」という苦悩に振り回されるのですが、その悩み苦しむ姿が美しくてな……!
 悩み苦しみ、失敗した末に、しかしその失敗を自分の責任として受け止め、愛するイリナと同じように、死が待ち受けている道を選ぶ……
 ……んだけど、それが不可抗力で貫き通せないという結末も、苦悩の果てに、大切な存在を守り通せなかったドミトリーの人生を象徴しているようで、ほんと切ない。切ないけれど、そんな苦悩に身を焦がし、苦悩を抱えて生きていったであろう朝夏ドミトリーは最高に美しかった……。

 そんな美しいふたりを巡る周囲が、案外美しくないのがポイント高い。もちろんヅカなんで見た目は(1名除いて)美しいんだけど、生き方が結構美しくない。
 真風ユスポフは、本物の大貴族のはずなのにどこかスノッブめいてるし、気品よや美しさよりも、手段を選ばぬ政治家としてのダークさの方が印象的。そりゃ権力志向の政界のドンというノリなマリア皇太后様と話が合うわー。皇太后様なんて、むしろ国の安定のためなら、やり口の美しさなんていつでも投げ捨てる!って感じだし。(権力者、為政者としてはそれはそれで間違ってないし、むしろ皇帝夫婦よりよっぽど頼り甲斐があるところが、また時代の皮肉を現してるよな……)

 対し、心は優しい皇帝も、他者にはヒステリーだけど家族には皇后夫婦は、自分の義務から逃げっぱなし。逃げるならドミトリに任せて逃げるか、逃げないなら頼むからちゃんと政治して。そして逃げたあげくに怪しい祈祷師を政治に介入させるあたり、ハプスブルグさんちのゾフィー様に扇でぶちのめされても文句が全く言えないダメっぷり。ただ、そんな皇帝一家が、一家の父、一家の母としては、最も良きで、優しき存在であったのがつらい。その優しさが、家庭感覚で政治をしようとしてしまう愚かさ直結してるのもつらい。
 皇帝一家の子供達はまだまだ幼すぎて、美しく生き抜くというレベルには達っすることができなかった(まあ半分ぐらいは、盲目的な愛情で子供達を守ろうとする皇后アレクサンドラのせいで、政治家としての成長を止められていたってのもありますが……)

 しかし、こういう「美しく生き」てはいない人々もまた、ロマノフ王朝を守る(もしくは自分の大切な存在を守る)ため、自分にできる最大限の努力をしていた姿が、バッチリぬかりなく描かれているからこそ。
 守るべき存在を守るため、己の最大限の力を尽くした結果、それが誰よりも高潔で美しい生き様となった、イリナとドミトリーの生き様が、いっそう輝いてみえました。


 そんな「生き方はそれほど美しくないけれど、見た目はやっぱり美しい」皇族様方の集団の中で。

 圧倒的な存在感と違和感と、醜さとおぞましさを放ちまくる愛月ひかるのラスプーチン。

 いやもう、凄いわ。

 凄いもんみちゃったわ。

 なんちゅうえっぐい醜さと怖さと迫力!

 いやこれほんと凄いわ。愛月ラスプーチンのあの高笑いだけで、これはヤバいってストレートに伝わってきますわ。あとラスプーチンの女狂信者ふたりが上手くてねえ……!

 しかも今作のラスプーチンは、いわゆるよくある「ラスプーチン」じゃない。
 金にも権力にも女にも興味が無い、という、かなり変化球のラスプーチンなんですよ!
 しかも、興味が無いからこそ、いっそう醜いというラスプーチン。

 本作のラスプーチンは、ひとことで言えば「怨念」。
 あまりにも長い年月、積み重ねられた結果、醜く歪みきってしまった怨念。恨みと悲しみに内に死んでいった無数の農民達の、悲しみと怒りと恨みが凝縮され、おぞましいまでの醜い負のエネルギーとなった、怨念。
 だから現世で役立つ権力も金も興味が無い。怨念だから、その怨みがある限り、彼は死しても滅びることがない。

 ……いやー、怖ろしいラスプーチンでしたわ……。積み重なった怨念――それも醜さ極まりない怨念という、難しい形にもってゆき、そしてそれを見事に成功させている上田先生に脱帽。他のほとんどのラスプーチン登場作品では、よほど子供向きでない限りは、エロとグロで味付けすることで醜さを出していますが、そういう安直な方向に行かず、エロもグロも封印した上で、それ以上の恐怖感とエグさを出してるあたり、ほんと上田先生にまじ脱帽。そしてその上田先生の期待に応え、見事な怪演を見えた愛月ひかるの上手さにも、ほんとに脱帽ですわ……。


 ジプシー側もすっごい見応えあってステキでした……!。餓えと苦しみの中に生きる激しさが、ほんと印象的。特に桜木みなと(愛称:ずん)演じるゾバールの、貴族と皇帝に対する怒りと憎しみの強さが凄い。怒りと憎しみをエンジンに暗殺に走る激しさも、荒々しい踊りも素晴らしかったなあ。

 ……まあ、実を言えと個人的には、観劇中は後の歴史につい思いを馳せてしまい、あまりの悲劇の予感に吐血しかかってたんですけどね……。
 蛇足ながら書き加えますと、物語が終盤あたりで、ロシア革命が成功し、レーニンがソビエトのトップとして国の指導者となります。ずんゾバールが、「レーニンの役に立ってくれるなら」といっていたあのレーニンです。ゾバールが「ボリシェヴィキのためには暗殺もしょうがない」って言っていたボリシェヴィキってのは、ロシア革命を起こした革命のグループの中でも、このレーニンを支持していたグループを指します。
 で、ソヴィエト連邦が成立し、その後レーニンが死去した後にトップとなったスターリンなんですが、これが実はレーニンと仲が悪く、自分の反対派(&反対派になりそうな人達)を史上最悪のレベルで粛清しましてな……。

 ……ずんちゃんのゾバール、革命の時に戦死してなかったら、結構それなりの地位に就けてもらえてると思うんで……スターリンに粛清される流れになる流れになる未来しか見えなくてな……。
 まあ架空の人物だから、そこまで心配する必要は全く無いし、なんかのことで無事という可能性だって無くはないんだけど、でも上田先生の史実と虚構のリンクの描写がすっごい上手いもんだから、「あ、このゾバール、スターリンの大粛清でやられるわ……」って、めっちゃナチュラルに想像できちゃってな……!。ほんとどこを取っても悲劇で終わるようにちゃんとなってて、ほんと上田先生は悲劇の鬼才やな……!姉は身分違いの恋と自分の革命に板挟みにされて死んでしまうし、弟はそれに巻き込まれて死ぬし、自分も結局こうなるし……!(落ち着け最後の部分までは上田先生は書いてない)

 あと風馬翔のイワンがすっごくいい味を出してたなあ……。冒頭の神に対する嘆きが最高。ゾバール達のように貴族に対して怒りをぶちまけるのではなく、神に嘆きを訴える。「貴族なら何でもかんでも悪い訳じゃない。なんとかしようとしている人もいるがが、上手くいっていない」ことに、イワンは本能的に気付いているんだろうなあ……。
 その気づきがあるので、ラスト近くの、ドミトリーに家に匿いますよというところは、ほんとグッと来ましたわ……。

 ラストシーン、登場人物が在りし日の姿で次々と登場し、最後にイリナとドミトリーが見つめ合うシーンは、これぞ宝塚の真髄とも言うべき、幻想的な美しさ。
 悲劇のなかで守るべき存在と愛のために戦い抜いたふたりの魂は、彼らふたりが愛した土地で再会を果たすことができたのか。それともふたりの愛を決して忘れることはなかった大地の記憶なのか。
 悲劇に沈んだ観客の心に、解釈はご自由にどうぞ、とそっと委ねてくれる、最高に美しいラストシーンでした。

 宙組トップスター朝夏まなとと、宙組きっての演技派かつ美しい娘役の伶美うららの最後を飾るに相応しい重厚な名作、堪能いたしました!

 クラシカルビジュー感想はこちら!

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